「愛ちゃんの顔見たら、おばあちゃん、長生きして良かった思えるんやで?
ありがとうやで、あんたは、ホンマは、東京におりたかったんやろ?
ごめんなぁ、愛ちゃん、許してな…」
私の手を握ったおばあちゃんの手が震えてた。
鼻の奥がツンッとした。
涙が出そう…。
大好きなおばあちゃんが小さく見えた。
「おばあちゃんの傍に来れて、私、嬉しいよ?
おばあちゃんのこと、大好きだから。
早く良くなって、一緒に“あんみつ”作ろうよ。
おばあちゃんの作る寒天、ホントに美味しいもん。」
「…そうやな。
愛ちゃん、おばあちゃんの寒天好きやったもんな。
退院したら、一緒に作ろか。」
「うん。楽しみにしてるね。」
近くの海岸で拾って来る天草で煮出す寒天は、はちみつ入り。
私の中の、おばあちゃんの味。
どんなお店のあんみつもおばあちゃんの作るこの寒天入りのあんみつには勝てないの。
小さいことから、毎年夏休みを過ごしたおばあちゃんの家は今は、もうない。
私たち家族が越して来ると決まったから、家を建て替えた。
今年の三月に出来あがったばかりの家。
新しい家の一階。
日当たりのいい和室がおばあちゃんの部屋。
まだ、この部屋におばあちゃんは帰って来たことが無い。
「早くおばあちゃんと一緒に住みたいな…」
おばあちゃんの部屋の雨戸を閉めながら私はいつもそれを願った。
夜、クッキーを焼いた。
ピスタチオとココナッツの入ったクッキー。
「いい匂いね。」
お風呂上がりのママが、焼き立てのクッキーを摘まんだ。
「明日、学校持って行こうかな…」
そう呟いた私にママが、優しく微笑んだ。
「きっと、みんな喜んでくれるわよ。」
喜んでくれるかな…。
新しい友達…。
沙穂ちゃん、裕子ちゃん、莉子ちゃん。
食べてくれるかな…。
