幸福論





「幸谷君…って、ああ…」






ママがハッと何かに気付いたように手を叩いた。







「愛ちゃんの彼…だよね?」






窓を拭くためのタオルを持ったままの幸谷君にママが声をかけた。






「あ、はい…。

はじめまして…、幸谷雅斗です…。

スミマセン…、窓拭いても良いですか?」








「はい、よろしくね。」








「失礼します…」






幸谷君が、被っていた帽子のつばを下げて、窓ガラスをふき始めた。

黙々と、磨かれていく窓を見ることも出来なくて、私は、カーステから流れる歌を心の中で口づさんで気持ちを誤魔化した。







お金を払ったママが、窓を閉めた。

そして、ゆっくり走りだした車。







「「ありがとうございましたー」」






店員さん達の声。

私はゆっくり後ろを振り返った。






まだこちらを見ている店員さんが目に入った。






幸谷くん…。