幸福論


私の知ってるおばあちゃんより、一回りも二回りも小さくなったおばあちゃんに胸が痛くて、鼻の奥がツンッと痛んだ。

海沿いの道へと続く弓形のカーブ。

そこを抜けると一面に広がる爽やかな色彩が私を包んだ。





キラキラ光る青い海は、夏を知らせて凄く凄く綺麗だった。

凪いだ波が白い。

遊泳禁止のこの場所だけど、ウインドサーフィンの帆がカラフルに揺れているのが見えた。

その無選別なコントラストが綺麗で、顔だけ横向けて海を眺めた。





サイドミラーに映るおばあちゃんを見た。

ジッと海を眺めるおばあちゃんの深い瞳の色はわかんないけど、どうか少しでも優しい時間を感じてくれてますようにと、思った。






「ヤダ、ガソリンランプ点いちゃった…」






相変わらずなママ。







「咲ちゃん、この先の信号右に曲がったとこにガソリンスタンドあるで。」






おばあちゃんの声が明るい。

ママの魔法。

みんなを明るくする。





ドジで慌てん坊のママがきっと可愛いおばあちゃんの目が優しく弧を描いたのがサイドミラー越しに見えて、私も自然と口角が上がった。







「いらっしゃいませー。」






元気なガソリンスタンドの店員さん達の声に導かれて、窓を開けたママが「満タンでお願いね。」と、伝えた。






「あ…れ、愛…子?」






声の方へ顔を向けると、そこに居たのは、グレーのツナギを半分脱いで袖を腰に括りつけ、白いTシャツの袖は肩まで捲りあげた男の子…。





「え、あ…、幸谷くん…」