教室へ向かう足取りは、やっぱり少しだけ重いけど、口の中に仄かに残る甘酸っぱい味に勇気づけられて足を進めた。
休憩時間は、賑やかで、私の遅刻なんてどうってことないとホッと胸を撫で下ろした。
でも、教室に入るなり掛けられて声に眩暈がしそうになった。
「なあなあ、高杉さん、今朝、二工の幸谷先輩と抱き合ってたってほんまなん?」
クラスの中で、一番目立ってる感じの斎藤さんが教室に入るなりの私の前に駆け寄って来た。
「ねぇ、ほんまなん?
ってか、幸谷先輩と、どんな関係なん?」
怖い…、早速だね。
誰かに見られてたとか…。
そりゃそうだよね。
駅であんなこと…。
思い出しただけで、顔が赤くなってしまう。
「どんな関係…って…」
口ごもっていると、沙穂ちゃんが私の傍に立った。
「斎藤、しつこいし、顔怖いって。
愛子、困ってるやろ?
しゃーないやろ、愛子可愛いんやから、そら、幸谷先輩の目にも止まるやろー。」
少し茶化して、斎藤さんをけん制してくれた。
「…てか、高杉さん、幸谷先輩に告られたとか?
ほんま?」
しつこい斎藤さんに私は、嘘も付けず、俯いたまま小さく頷いた。
「…付き合い出したの?」
「…うん…。」
誤魔化すなんて出来なかった。
どうしてなのか、誤魔化したくなかった。
