「モテないからってひがむなよ、琢斗」


俺の嫌みにも取れる冗談にも顔色ひとつかえず、


「いいから、練習するぞ。俺が受けるから、お前投げろ。」


淡々と話すこいつに、やっぱりかなわねぇなーと思う。




琢斗と初めて会ったのは、中学生の時。


その頃俺はエースで4番。


恥ずかしい話だけど、地元では俺にかなうやつなんていないって思ってた。


元々練習嫌いだった俺だけど、センスだけでここまで来ていたし、自分は天才だってバカみたいな自負があった。


でもそんな俺のエゴを打ち砕いたのが、こいつ。


中学時代、決勝で戦った学校でキャッチャーをしていた琢斗だった。




こんな地元のへぼピッチャー、俺に打てないわけがない。


そう思ってたけど、


どうしてかそこのピッチャーの球だけは打てなかった。


ピッチャーが凄かったわけじゃない。




俺たちのことを研究して、打てないような配球をしていた


琢斗が凄かったんだ。




結局あいつの学校は、琢斗以外は大したことがなかったから


1―0で俺たちの学校が優勝したんだけど




どこか腑に落ちないくやしさを抱え




「宮崎琢斗」




俺はこの名前を忘れることはなかった。