「お前、もう帰る?」


「あー、うん。いい加減帰ろうかな。」


今までぼーっとしてて、いつのまにかこんな時間になってたけど


これ以上遅くなるとさすがに親が怖い。


部活もバイトもしてない私は、それを理由にできないし


勉強してた、ってのもへんな言い訳っぽくて私は嫌いだ。


それに、努力をおおっぴろげにアピールする人も、私は嫌い。


だからたとえ勉強してたとしても、私は言わない。




「俺今着替えてくるから、待ってろ。送ってく。」




「ひとりで帰れるのに。」


「お前なぁ、そんなでも一応女なんだから。こんな時間にひとりじゃ危ないだろ。」


なんか少し引っかかる言葉はあったけど、こういう気遣いは昔から変わらない。


それになんだかんだ言っても、私のことを女の子扱いしてくれてることを、私は知ってる。




トーヤ。




あんたとは、


喧嘩もできるし


言いたいことも言えるし


気を遣わなくてすむ。




でもね…







更衣室に向かうトーヤの後ろ姿を見送り、私はまたグラウンドに目を移す。




そこでは、
野球部がユニフォームを真っ黒にしながら練習に励んでいる。


外が真っ暗でも


ユニフォームが泥だらけでも


顔が日焼けして真っ黒でも




私にはあいつが眩しく見えるよ。




「がんばれ。」




遠すぎて届くはずがないけど、私は今日もあいつにそう呟いて


教室をあとにした。