その演奏が終わって 「ねえ、なんでわざわざみんなこんな場所で演奏したがるんだろうね。」 亜子が聞いてきた。 「さあ…たぶん、自己表現?」 「自己表現…」 「伝えられない気持ちも、音楽なら伝えられるんじゃね?わかんねえけどさ。」 俺の言葉を、亜子は黙って聞いていた。 何かを考えているような、遠い目で… 「亜子もあるだろ。伝えられてないこと。」 俺がそう言うと、 「…そう、かもしれないね。」 珍しく亜子は俺の言葉を否定しなかった。 なんだか少し、亜子の弱さを見た気がした。