琢斗。


お前はずりーよ。


最後はかっこいいとこ、全部持ってっちゃうんだから。




クラスの奴らが琢斗と夢乃を冷やかす中、俺と亜子だけはどうしようもない虚無感に襲われていた。


きっと俺たち、今同じこと考えてるな。




「ヨウ、いいの?琢斗に夢乃持ってかれちゃうよ?」


「お前こそ。いつまでも意地張ってると、琢斗は一生お前の気持ちに気づかねーぞ。」


2人並んで、あいつらの後ろ姿を見つめることしかできなかった。


亜子、俺たち似てるのかな。




「どうしたらいいのかな…私、どうしたらいい?2人の前でどんな顔すればいい?頭ぐちゃぐちゃで、わかんないよ…」


亜子は肩を震わせて、でも強がって下を向かないように、空を見上げる。








「俺、行くよ。夢乃のとこ。」


不意に呟いた俺の言葉に亜子は驚いて、俺の顔を見つめる。


「琢斗には渡せない。それが、俺の本音だから。俺は自分の気持ちに正直に生きるよ。」


「お前もさ、頑張れよ。」


「俺ら似てるからさ、お前がうじうじしてるの、なんかやだ。」


そう言って亜子の肩を叩いて、ニッと笑った。




ファンの女の子たちに見せる作りものの笑顔じゃなくて、心からの笑顔。


それがわかってるから亜子は、


「一番ズルいのは、琢斗じゃなくてあんただよね…いつもそうやって笑ってればいいのに。」


照れ隠しをするようにそっぽ向いて、わざと俺に冷たく言い放つ。


本当に可愛いくない。でも、こういう不器用ないじらしさは、夢乃に負けてないよ。


こういうお前の可愛いとこを、遠哉はずっと見てきたのかな。