「みんな座ってー」
教卓の前に立ち、少し高い所からクラス全体を見渡す。
「ほら、お前等座れよ!」
戸部が気を使ってクラス全体に注意する。
嬉しいことだが、琴は自分が情けなく思った。
ドキドキしながら戸部の後ろに目をやってみる。
真人はカバンに顔をうつ伏せて眠っているようだった。
なんとなく安心してしまう琴。
でも心のどこかで淋しさを感じた。
「えー、来週月曜から期末試験の一週間前になるので生徒の職員室立ち入りは禁止になります。明日は休みだから、用のある人は今日中にお願いしますね」
「はーい」
カンペを読みながら一生懸命説明する琴に返事を返すのは、やはり戸部ひとりだった。
後の生徒は聞いているのかいないのか何の反応もない。
勿論真人も。
1年生の授業もこんな感じなので、琴は気にせず続けた。
「同じく、試験一週間前から部活動も中止となりますので何かあったら顧問の先生の所へ連絡して下さい。以上です」
「起立!」
学級委員でもないのに戸部が号令する。
その声に驚いたかのように後ろの真人がゆっくり立ち上がった。
全員が立ち上がっているのに、ピンポイントで真人が気になってしまう。
「礼!」
と、いう前に琴は深々と頭を下げていた。
生徒が教室を出ていく中、琴は猛ダッシュで職員室までを駆け抜けた。
「廊下は走らない」

