「突き落とされたのが事実だったら…事故じゃなくて事件ですよね…」
「まぁね」
「警察は動いてるんですか?」
「さぁ…学校もことを大きくはしたくないからね。それにあんたの話もあるし、本人が学校と結び付けるようなことは話さないわよ」
関口先生は琴の手にホットミルクを握らせた。
そしてその手を自分の両手で包んだ。
琴の手は内側からの温かさと外側からの温もりを感じる。
「ここへ連れてくるべきじゃなかったわね」
申し訳なさそうな声で関口先生が言った。
「先生…」
「怖かったでしょ」
「私…この保健室は大好きなんですよ」
優しい声で微笑む琴。
「関口先生がいるから」
先生がいなかったら、きっと今日まで教師を続けてはこれなかったよ…
「やだっ。泣かせないでよ」
潤んだ瞳で笑いながら、関口先生は琴の頭を軽く撫でた。
琴はホットミルクを一口飲む。
「やっぱり、ここは落ち着くなぁ」
「癒し系のおばちゃんがいるからね」
「ちょっとお節介ですけどねぇ」
「まぁ!」
2人は見つめ合ってクスクスと笑った。
「森下先生のことは忘れなさい。新学期にはボコボコにしてやるから」
「えっ…」
「脅しなんかに負けちゃダメよ。こんなに強い味方がいるんだから」
琴はゆっくりコクりと頷いた。
関口先生は本当に嫌なことを忘れさせてくれると思っていた。
そう思うと胸がまた熱くなるのを感じる。
「ありがとう。先生」

