白い吐息


「ぁ…。英語科の長谷川琴です。短い間ですがよろしくお願いします」

琴は頭を下げた。
ガヤつくクラス。

「静かに…」

校長の一言で静寂を取り戻す。

琴は冬にも関わらず汗びっしょりになっていた。

「では、長谷川先生ホームルームお願いします。大丈夫ですね?」

「はい…」

琴が返事をすると、校長は教室を後にした。
フッと溜め息をつく琴。
校長の存在はやはり大きい。
教卓の上に置かれた出席簿を手にする琴。
その重さにやっと気付く。
授業の時とは違う緊張感が走った。
真人のクラスだと思うだけで更に緊張する。

「じゃあ…、出席取ります」

「森下って、何でケガしたの?」

琴の声にかぶさるように女子生徒が話し掛けてきた。

「ごめんなさい。私も詳しくは聞いていないの」

「へぇ」

質問してきた女子生徒は詰まらなそうな顔をした。

「いつから学校来るの?」

別の女子生徒が尋ねる。
やはり森下は女子には人気があるのか?
琴は心の中でチッと舌打ちをした。

「全治3週間って話だから、来学期には戻って下さると思います」

笑顔で振る舞う琴だったが、昨日のことがあるので本当は森下の話をするのは嫌だった。
しかも、真人の見ている前で。
教師の仕事の大変さを改めて思い知った琴だった。

「森下の話は後にしよーぜ。先生困ってんじゃん」

そう言って気を使ってくれたのは戸部だった。

「大丈夫。困ってないから…担任の先生のことだもん、心配だよね」

「そーでもないけど…」