「真人…」
琴の胸は熱くなった。
「オレは琴子が好きな人を忘れるまで、絶対手は出さないから…ただ側にいて守るだけだから」
ドラマみたいな台詞。
琴は感じた。
Pureという言葉が一番似合うのは真人だということを。
「じゃあ」
と言って別れる2人。
琴は真人の背中を見送ってから階段を上った。
自室のドアを閉めると、ドアに寄りかかり、ため息をつく。
そしてそのまま崩れるように座り込んだ。
瞳の奥から溢れてくる熱いもの。
涙。
琴の膝にゆっくり落ちる。
何故泣いているのか…
琴は自分のことなのに分からなかった。
「なんでたろ…最近涙もろいな…」
白居先生が事故で死んでしまったとき、琴は毎日のように涙を流していた。
泣いていないと生きていられなかった。
あの時は悲しみだけが唯一の感情で、泣くことだけが彼女に出来ることだった。
涙が乾くと全ての出来事が夢であったかのように思えた。
だけど時は残酷で涙の泉が枯れ果てたとき、彼女に残ったのは放心の日々だけだった。

