白い吐息


「オレは朝は得意だよ。掃除も上手いし、出来ないのは料理だけかな?」

「私は料理は好きだけど、自分の分だけだと作る気なくなるのよね」

「じゃあ、オレが掃除するから、琴子が料理してよ」

「それはいい考えね!」

「朝もちゃんと起こすし!」

「本当!」

2人は顔を見合わせた。
顔を赤くする琴。

「かっ風が冷たいね…」

真人は不自然に話題を変えた。

沈黙のまま歩く2人。
あっという間に琴のアパートの前まで来てしまった。

「…お茶でも飲んでく?お家には私から連絡するから…」

下を向いたまま喋る琴。
声が緊張していた。

「やめとく」

真人の答えは即答だった。

「…だよね」

琴が半笑いの状態で顔を上げた。

「嫌な訳じゃないんだ…」

真剣な顔付きの真人が琴の目を見ながら続けた。

「でも、もし今部屋に入ったら…オレ…琴子のこと押し倒しちゃうと思うから…」

琴の胸にまた痛みが走る。
月の光に照らされた真人は夕日同様にとてもキレイな姿をしていた。

「正直、先を越されたのはやっぱり悔しいんだよね。琴子の気持ち、考える余裕もないくらい…」

琴は静かに彼の言葉を聞いていた。

「でも、オレは卑怯な真似はしたくないから。せっかく琴子が側にいさせてくれてるんだし」

真人は両手をポケットに入れて夜空を仰ぎ見る。