白い吐息

真人は先に琴の涙を親指で拭った。
そして手にしていたタオルをそっと彼女の唇にあてる。

「んっ…」

タオルは温かくて気持ちのいい感触だった。
琴は不思議な感じを覚える。

「消毒だから」

真人の声が優しい。

琴は目をつぶり、タオル越しに息を吸い込む。
真人の匂いを感じる。
まるで彼とキスをしているような気分に陥った琴。

「琴子は汚れないよ」

真人の言葉に瞼を上げる。

「琴子はずっとPureだから」

優しく微笑む真人。

それに答えるように琴の瞳が微笑んだ。
タオルを自らの手に持ちかえる琴。
ギューって押しあててゴシゴシと唇をふいた。

「あは…口紅ついちゃった。関口先生に怒られちゃうね」

笑う琴。

「捨てちゃえば分からないよ。高いものでもなさそうだし」

「そうね」

タオルをゴミ箱に放ると、琴はうがい薬をたっぷり入れた水で何回もうがいをした。

「帰る?」

真人が琴の背中に聞く。

振り向いた琴はスッキリとした笑顔で答えた。

「職員室付き合って。一緒に帰ろう!」












『琴子、一緒に帰ろうか』

『えっ…』

『最近暗くなるの早いよな』

『はぁ…』

『女の子ひとりだと危険だろ?』

『でも、私自転車だし…駅とは方向逆ですよ』

『じゃあ、少しだけ送らせて』

『…はぃ』

『って、口実なのかな。本当は女子高生と並んで歩きたいだけのオヤジなのかも』

『ハハ…まだ若いじゃないですか』

『そっか、じゃあただの変態だな!』

『威張らないで下さいよ』











「真っ暗だね」

空を見上げて真人が言った。