夕方6時を回った。
生物室に鍵をかける琴。

「明日はちゃんと部活できるように歌詞用意するから」

「それならオレが持ってくるよ」

「ホント!ありがとう白居…真人…くん…」

名前を口にするだけでドキドキが止まらない琴だった。

「それじゃあ、フルネームじゃん」

真人が笑いながら言う。

「なんか調子狂うな」

「オレに狂わされてるの?」

「いつもそーやってからかうんだから…意地悪ね」

「だって琴子が可愛いからさ」

流れるように名前を呼ばれ、照れ臭くなる。

こんなことでは琴の心臓は壊れてしまいそう。
対する真人は顔色ひとつ変えず平然としていた。

「…じゃあ私、用事あるからまたね」

胸元で琴は小さく手を振った。

「うん。また明日!」

真人は大きく手を振って生物室から一番近い階段を降りて行った。
真人のあどけない表情に微笑みながら、琴は職員室に生物室の鍵を返しに行く。
職員室にはわずかな先生しか残っていなかった。
きっと学期末テストの作成の為、早く帰っているのだろう。
正直、テスト問題は職員室では作りにくい。
静かな環境で作成したい気持ちは琴にも分かった。
生物室の鍵を鍵棚に戻すと、琴はあることを思い出した。

保健室の鍵!

琴がパンツのポケットに手を入れると保健室の鍵が出てきた。
帰るときに扉を閉めろと頼まれたことをすっかり忘れていた琴。
職員室の扉をゆっくり閉じて、急いで保健室に向かった。