白い吐息


「先生は、まだ…その人が好きなんだね」

真人の目はどこか果てしなく遠くを見ているようだった。

「まだ…忘れたくないんだね」

琴の胸はチクンと痛んだ。

「まだ、次の恋は無理なんだ…」

真人の声がどんどん小さくなってゆく。

「ごめんね…」

ポツリと琴が呟いた。
それを聞いて真人がクスっと笑った。

「マジ、謝ってばっか」

「誰のせいよ」

琴が真人を叩こうとすると、真人はその腕を優しく握った。

「先生、お願いしていい?」

子犬のような潤んだ瞳の真人に琴は一瞬金縛りになった。

「何…?」

「先生が、その人のこと忘れたいと思ったら…」

ドキン―

「その時は、オレを好きになってね」

真人の真剣そのものといえる口調に圧倒され、琴は思わずコクリと頷いた。
照れ笑いを浮かべる真人。
その無邪気さに琴も微笑んだ。

「じゃあ、婚約ならぬ恋約しよ!」

「えっ、何?」

真人の唇が琴の顔に迫った。
思わず目をつぶる琴。
右の頬に柔らかな感触を覚えた。
真人からの初めてのキス。