白い吐息


琴はいつかのように、ずっと真人に背を向けていた。

「…なんで…」

真人が見つめていた背中から涙声が零れた。

席を立って、琴の近くまで歩いてくる真人。

「…うっ…」

口元を手で押さえ、すすり泣く琴。
真人は彼女を抱きしめようとしていた手を止めた。

「ごっ…ごめんね…白居くん…」

真人が側にいることに気付いた琴は、とっさに涙を拭った。

「泣いてていいのに…」

真人は琴の隣に立って、窓の外を眺めながら言った。

「ダメだよ…」

鼻をすする琴。

「何でダメなの?」

「教師とはそーゆーものなの!」

無理矢理笑顔を作って、琴は言った。

「教師かぁ…」

ため息まじりの真人の声は低く響く。

「教師が生徒の前で涙を見せていいのは、卒業式だけよ」

ニコヤカな顔をして、琴は語りかけた。
真人は彼女の顔を横目でチラっと見た。
琴の頬には涙の通った後がはっきり残っている。

「先生はこれからも、その人だけを好きなんですか?」

「えっ?」

真人の声は囁きのように小さく、琴の耳に届かなかった。

「だから、先生はもう人を好きにならないの?」

今度は大きな声ではっきり言った。

窓の方を向いていた身体はいつの間にか琴の方を向いている。