白い吐息


琴は右手の甲を机の下で優しくさすった。

「どしたの先生?」

真人は琴の異変を感じ、持っていたシャープペンシルを置いた。

「…私の好きだった人も左利きだったんだ」

ゆっくりと語る琴。

「先生の好きな人?」

「ずっと前に事故で死んじゃったんだけどね…」

「そっか…」

真人はうつむいた。

「白居くんに少し感じが似てる人だったから、…思い出しちゃった」

琴はあえて同姓同名ということは伏せて置いた。
そのことは知られたくない。
驚きと悲しみの中、理由も分からずそう思った琴だった。

「今でも、その人のことが好きなんですか?」

申し訳なさそうな顔をして真人が聞く。

「わからない…」

「どうして?」

「その人に想いを告げられなかった未練だけ残ってて、それに縛られてるだけかもって、自分で思う時があるんだ」

琴は目頭を指で押さえた。

「告白できなかったんだ…」

「できてたら、こんなに想いを引きずることはなかったのかも…」

琴は立ち上がって窓の方へと歩いた。
黒髪が鮮やかオレンジ色に染まる。

「ちょうど、今位の季節だったんだ」