白い吐息


「あっ!それもあるの!戸部くんから話聞いて…」

真人が一瞬淋しそうな表情を浮かべたので、琴は慌てて口を開いた。

「戸部?」

「うん!白居くんが…」

琴は凍り付いた。

戸部から聞いた話は今はまだ封印して置くと決めたばかりだったから。

「オレが?」

息が詰まった。

まだ聞けない―

「しっ白居くんが欠席してるって…教えてくれたから…心配になって…」

まだ聞けないの―

「それだけ?」

真人は疑わしい目で琴を見る。

「そっそれだけだよ。何か?」

逆に質問することで琴は逃げた。

「別に…」

真人は片手で頬杖をつく。
そして瞳は窓の向こうを見ていた。
青かった空がだんだんオレンジ色に変わっていく。
その瞬間はいつも美しい。
空の色を映す真人の瞳はまるでガラスのようだった。
目は人の心を象徴する。
ガラスのようにもろく、壊れやすい真人の心。
自殺未遂の件を知ってしまった琴は、彼の心に触れるのが怖かった。
だから下手くそでも、嘘を貫き通した。
時々曇る真人の心。
あのクシャっとした笑顔の裏で真人は何を思っているのだろう?
琴はそれだけが気になった。
戸部の話、母親の話、その真実は真人だけが知っている。