「いっか…」

琴は静かに出席簿を開いた。

「とりあえず出席取ります」

と、いっても誰もちゃんと席についていない。
地味に着席してる、いかにも真面目一筋な生徒も懸命に本を読んでいて、琴の声はまるで素通りだった。

「出席取るなら早くして」

つまらなそうな顔をした女子が軽く言う。
イラっとする発言だが、琴は慣れっこだった。

「じゃあ、ちゃんと返事して下さいね。返事ない人は欠席にします」

琴なりの反抗だった。

「青木くん」

「ハイ」

「上田くん」

「あい」

「遠藤さん」

「はーぃ」

やる気が感じられる、られないが明らかに分かる返事だった。
琴は名前をこぼさないように出席簿を指で追っていく。

「小沼くん」

「はい」

「佐々木さん」

「はぁい」

「しっ…」

琴の声が急に詰まった。

出席簿を手にし、震える琴の目は、まるで何か恐ろしいものでも見るかのように見開いて一点を差している。
唇も半分開いたまま震えていた。
生徒が静かになった。

「先生?」

様子のおかしい琴に声をかける生徒。
でも、その声は琴の耳に入ってはいなかった。

琴を縛り付けたもの、それは1つの名前だった。