白い吐息


白居先生の死は謎が多く残されていた。
死因は出血多量。
自転車走行中に大型トラックにひき逃げされたからだ。
しかし、その事故現場が謎のひとつ。
彼の家からは遠く離れた場所。
勤めていた高校からも電車で2時間はかかる。
買い物に行くような場所でもない住宅街だった。
彼の交友関係を調べても全く当てはまらなかった。
そして、もうひとつの疑問が自転車。
自動車を持っている人間が何故、わざわざ自転車に乗って遠い場所に出掛けたのか。
この自転車は彼の母親のものだった。
40代後半の母親と彼は2人暮らしをしていた。
彼が幼い頃、両親は離婚、彼は母に引き取られ、女手ひとつて育てられた。
母親は元々からだが弱かったこともあり、事故のショックが原因で息子を追うように亡くなっている。
親戚付き合いが無かったようで、彼の父親については不明な点が多い。


琴と白居先生が過ごした時間は、わずか9ヶ月。
だけど、そんな短い時の中で琴は本気で先生を好きになった。
恋をした。
そして愛を知った。



「ふぅ……」

琴が顔を上げると、クッションは涙で濡れていた。

5年断っても癒えることのない痛み。

「命を粗末にするな!」

2-B白居真人の自殺未遂の話を思い出し、琴はクッションを思い切り壁に投げ付けた。
アルバムを片付けようとする琴。
しかし、持ち上げると手が滑って床に落としてしまった。
床で開くアルバム。
部活動写真のページだった。
外国文化研究部の文字の上で、琴と白居先生の2人が幸せそうに微笑んでいた。