白い吐息


「やっぱり湯船は最高。日本に生まれて良かったわね琴ちゃん」

会話をする相手がいないことは恐ろしいことで、独り言から始まり、ついには自分に話し掛けるにまで至ってしまった。
琴の場合、自覚しているようなのでマシである。
世の中には自覚症状のない人もいるとか…。
とにかく、どっちにしても寂しいのは同じだ。

ふと本棚に目をやる琴。
キレイに並んでいる書籍の中から、高校の卒業アルバムをつまみ出した。
立ったまま、しばらく表紙を見つめる琴。
ケースからアルバムだけを取出し、お気に入りのガラステーブルに置いた。
クッションを抱き締めて座る琴。
アルバムを何ページかめくると、教職員の写真一覧で手を止める。

「白居…真人…」

零れるように小さく呟きながら、琴は人差し指でその名前を優しく撫でた。
名前の上にある写真。
琴の愛する人の写真。
皮肉にも遺影に使われている写真。

「白居先生…?」

写真に向かい頬杖を付きながら名前を呼んだ。