白い吐息

琴の家は高校のすぐ近くにある賃貸アパート。
モダンな外観で、築8年にしてはキレイな方である。
ワンルームで家賃7万、都会なら納得もいく。
わざわざ高校の近くに住むことにしたのは、単に琴が朝寝坊の女王であるからだった。
しかし、赴任3日目で遅刻。
校長にこっぴどく怒られ、泣きながら保健室に駆け込んだ。
関口先生とは、それからの付き合いとなる。

PM6時半。
この時期になると、外は真っ暗である。
琴のアパートが白くぼんやりと浮き上がって見える。

「こんばんは」

階段でお隣の奥さんに挨拶する。
琴の部屋は2階の一番奥である。
2階建てなので一応最上階だ。
ごちゃごちゃのカバンから鍵を引っ張り出しドアを開ける。
部屋の中は勿論真っ暗。
切ない独り暮らし。
それでも、

「ただいま〜」

と言って電気をつける。

琴は重いカバンを床に投げ下ろし、深くため息をついた。
毎日がこんな感じである。

「夕飯…何食べよ…」

独り言をブツブツ呟きながら、とりあえずコートをハンガーにかける。
小さい冷蔵庫の中はガラガラに空いていて、ビールだけが待っていた。

「カップラーメンでいいか…」

ファンヒーターを弱にしてスイッチを入れる。

「お湯…ためなきゃ…」

自作のお風呂の歌を口づさみながら、風呂場へ直行。
寒い冬場は誰しもお湯につかりたいものである。