白い吐息


「白居くん!」

思わず大声になる琴。

すれ違う人が振り向いていく。
赤面…。

「「先生、今日うちに来てくれたんだって?」」

明るい声。

琴は何だかホッとした。

「お母さんに聞いたの?」

「「うん。お礼言いなさいって言われた」」

「別に…私は…」

口ごもる琴。
額の汗を手の甲で拭った。

「「ありがとう、先生」」

無邪気で優しい声が琴の耳をくすぐる。

「いえ…」

琴は真人に聞きたいことが本当は沢山あった。
無断欠席の理由。
親とのこと。
自殺未遂の真相。

そして…

自分に対する好意が真実なのかどうか…。


でも、携帯から響く彼の穏やかな声を聞いていると、そんなことは今はどうでもいいと思えてきたのだった。

「白居くん…」

「「何?」」

「明日は…学校来るの?」

「「明日は大丈夫!心配かけてゴメンなさい」」

「来るならいいの。謝るなら、私じゃなくてお母さんにね」

「「わかった」」

「じゃあ、明日ね」

琴が耳元から携帯を離そうとした。
そのとき、

「「先生!」」

慌てるように真人が電話を繋ぎとめた。

「…まだ…何か?」

「「…あっ、…何でもないや…また明日!」」

プツっといって電話が切れた。
琴は不思議そうに待ち受けを見つめる。