「真人は両親と上手くいってないんですよ」
「そうなの?」
「勉強して一流を目指すっていう親父さんの考え方が嫌いみたいで…お袋さんも親父さんのこと尊敬して結婚したみたいだから、2人共真人に期待してて、小さい時から家庭教師雇って毎日勉強させられてたらしいです」
「大変そうね…」
「オレ、真人とは小学校のときから一緒なんだけど、あの頃のアイツはホントに勉強しかしない暗い奴で、友達もたまたま近所だったオレしかいなくて……」
そう言うと、戸部は急に立ち上がり小さな窓から外を眺めた。
「でも…ある事件を境にアイツ変わったんです」
「事件?」
戸部の顔を見上げる琴。
「アイツ…」
口を濁す戸部。
「小学校の屋上から飛び降りたんです」
言葉を失った。
衝撃の事実に驚くことも出来ない琴。
瞳だけが乾いていく。
何が何だかさっぱり分からないとは、きっとこんなことを言うのだろう。
「つまり…自殺しようとしたんです」
「…じ…自殺…」
やっとの思いで戸部の言葉を反復する。

