白い吐息


「「そっか…。ごめんね」」

「ううん。真人こそ、どうしたの?」

「「いや…なんかさ…。また白昼夢みるようになっちゃって…」」

「そうなの…」

自分の身体をさする琴。

「「今…、琴子のアパートの前にいるんだ…」」

ハニカミながら話す真人の声が琴の耳を通してハートを刺激した。

「そう…なんだ。でも…今日は仕事が沢山あって早く帰れそうもないの」


こんな身体、真人に見せられない…

「「…わかった。…明日は会える?」」

「うん」

琴は涙を零しながら優しく返事をした。




もう忘れよう…


終わったんだ…









「ただいま…」

白居家の広い玄関に響く真人の声。

「お帰りなさい」

飛び出してくる母。

「……母さん」

真人は不安そうな目で母の顔を見つめた。

「どうしたの?」

「オレ…何で外に出たんだっけ?」

「えっ?」

「何で学校行ったんだっけ?」

「真人…?」

「…分からないか」

そう言い残して真人は自室へ向かった。
眉をしかめる母。

部屋に入ると真人は姿見の前に立った。
暗く、電気も付けない部屋の中。

「…痛い」

真人は少し血に汚れた左手を眺める。

覚えのない痛み…