白い吐息


オレに出会わなければ

あなたはまだ

この世にいたのに……




謝っても


謝りきれない…




ごめんなさい



真人さん………







琴は電車に揺られていた。
手作りクッキーとバラを一輪紙袋に入れて、空席もある車内にも関わらずドアの横に立ち、窓から冬の街を眺めていた。
黒のコートにグレーのバッグを肩にかける。
いつもはストレートの髪を柔らかくカールさせて、帽子を被っていた。
ライヴの時とはまるで別人のようだった。

事故現場に向かう為、琴が下りた駅。

ここって…

その駅は真人の家の最寄駅だった。


そうだ、この前…
真人の家を訪ねたときに下りた駅だ…

琴が事故現場を訪れるのは今日で2回目だった。
前回は白居先生が亡くなった翌年の春、高校卒業を伝える為にやってきた。
しかし、それ以来怖くてずっと避けてきた場所だった。
先生を思い出すことは琴にとって、とても苦痛なことだった。

ずっと、変わらず好きだったから。

でも今は違う。
真人という大切な存在が出来た。
新しい恋をした。
白居先生にさよならを言う決心がついた。

だから5年ぶりに、この地へやってきた。