「何…してるの?」
目の前の光景に学生は唖然として立ちすくんでいた。
「飛び降りるの」
首に赤いマフラーを巻いた女教師が無感情に呟いた。
足元には靴が2足、きれいに並べられている。
裸足の足は学校の屋上すれすれで彼女の体重を支えていた。
「飛び降りて、どうするの?」
学生はゆっくりと前進しながら冷静に尋ねた。
「あの人の所へ行くの」
彼女は口元にうっすら笑みを浮かべた。
「先生の所?」
「そうだよ」
「よくこんな高い柵を越えられたね」
「あなただって越えたことあるじゃない」
「オレのときは、柵の扉が開いてたんだ…」
「初耳だわね」
「死ぬつもりはなかったんだ…後悔した…」
学生は女教師の真後ろに立ち、冷たい柵を握り締めた。
「ズルいな」
彼女の頬を一滴の涙が伝っていく。
「髪が伸びたね…」
学生が彼女の髪にそっと触れる。
「私、何で泣いてるのかな?」
「……」
「あの人に…あの人の所に行けるのに…」
「……」
学生は彼女の髪に口づけをした。
「愛してる」
「……いくん?」
彼女が振り向こうとした。その瞬間、彼は彼女の背中を押した。
低い空に少年の悲鳴が響いた。

