「森下は親父の知人の息子で、親父が頼み込んだんだ」
真人は淡々と喋り始めた。
「お父様が、森下先生に?」
「ああ。オレ、ある理由で中学ろくに行ってなくて…」
無断欠席?
「勉強も出来なくて…ってか、してなくて、入れる高校なんて無かったから」
「それでお父様が…」
「森下に金積んだ」
真人は間髪入れずにそう言った。
琴は何も言えなくなってしまった。
「親父は、自分の地位を守りたかったんだ。うちの親父は一応大手貿易会社の社長してる。社長の息子が中卒なんて有り得ないと思ったに違いないよ」
琴はただ黙って話を聞いていた。
「引いた?教師にする話じゃないもんな…」
「…とう」
「?」
「ありがとう…話してくれて」
琴の目から涙が溢れだしていた。
意外な展開に驚く真人。
「なっ…なに泣いてんの?」
「だって、嬉しくて」
鼻水を垂らしながら顔を上げる琴。
「嬉しい話じゃないだろ。聞かされて困る話じゃん」
真人はティッシュで琴の鼻を押さえる。
「はりはと…」
゙ちん゙と鼻をかんだ後、琴はニコヤカ笑顔を真人に見せた。
「困らないよ。裏口入学のこと、そりゃ教師としては驚いたけど…。私は真人の前では普通の女だもん。素直に話してくれたことが嬉しかったの」

