白い吐息

周りを見渡しても彼の姿はない。

真人…


琴は取り敢えず客の波に乗って会場を出た。

真人に電話したい…

だけど、その勇気がなかった。
何を話せばいいのか分からなかった。


《どこにいるの?》

メールを作成したものの、電波状況が悪くてなかなか送信できない。


ライヴの話をしながら、楽しげに帰っていくファンたち。
そんな光景に、琴は訳も分からず泣けてきた。

会場前の広場の端に避けてうずくまる琴。


「琴子─────!」


声の方向に振り返る琴。
真人が猛ダッシュで走ってきた。

「……」

言葉を失う。

「心配したぁ…」

真人は荒い息遣いで喋る。
そして地べたに体育座りをして呼吸を正した。

「心配…?」

目を反らしたまま尋ねる琴。

「だって、琴子居なくなっちゃうからさ」

「居なくなったのは真人じゃん!」

ふてくされた横目でチラっと真人の顔を見る。

「え?」

「探したんだから」

「オレ、トイレ行くって言ったじゃん」

「いつ?」

「アンコール前のとき」

「…?」

「戻るまで、場所動くなって言ったし」

「嘘?」

「嘘じゃねーよ」


キスの衝撃のあまり、周りが全然見えていなかったことに今更にして気付く琴。