白い吐息

曲が終わりに近付き、気持ちよさげな上原燈夜は大きくフェイクを響かせる。

鮮やかなライト。
目の前で輝く憧れの君。

琴は曲に浸っていた。



しかし、次の瞬間…

目の前が真っ暗になった。




……?




唇が熱かった。



それは、ほんの一瞬触れ、離れていった。


琴の目の前には、上原燈夜ではなく、真人の顔があった。

うつろな目をしている真人。
正反対に見開いた琴の目。

「他の男ばっか見るなよ…」

茶色の前髪が艶っぽい。
長いまつ毛。
筋の通った鼻。
キレイな肌。
ふっくらとした…唇。

こんな目の前で見るのは、初めてだった。


唇に残った感触。
言葉にならない琴。




キス…




初めてだった。
真人からの…初めての…
愛の贈り物。



ライヴが終わるまでの約1時間、琴は放心状態で鮮やかなステージだけを見ていた。
真人も横に立ったまま、話し掛けることはなかった。

大好きなCRYSTALの曲も、ラストを飾る大々的な演出も、感動のアンコールでさえも、琴の頭を素通りしていった。

客電と会場アナウンスによって、やっと我を取り戻す琴。
慌てて席を立つが、隣に真人の姿はなかった。