白い吐息


『あぁ。オレの友達の親戚の子が養成所に入って、人気アイドルの後ろで踊ってるらしいんだよ』

『へぇ…スゴい』

『名前、なんていったかな…上原…上原…』

















「燈夜──────!!」

目の前の上原燈夜にブンブンと手を振りまくる琴。
高校教師にはまったく見えなかった。
隣の真人はステージではなく、ずっと琴のことを見ている。
その視線に気付き、振り返る琴。

「次、上原くんのソロなんだよ」

そう言って、またステージに吸い込まれてゆく琴。

ピアノの音に引きずられ、真人もステージに目を向ける。

「バラード?」

「うん。すっごくイイ曲なんだ…」

淡いピンクの照明の下に、ひとりたたずむ上原燈夜。
ピアノの音は神秘的な音へと変わってゆく。
白い衣装の彼は裸足になり、マイクを口元へと運んだ。

騒ついていた会場が静まりかえり、透き通った歌声だけが曲に合わせて響く。
歌詞の内容は悲しい恋の物語だった。
真人の反対側の隣にいた少女は涙を零していた。

「……」

琴の表情を伺う真人。

琴はまるで恋する瞳でうっとり上原燈夜を見つめていた。

「琴子?」

隣で小さく話し掛けるが、琴の耳には届いていなかった。