「……」
琴は何も言えなかった。
「朝が来て、琴子の顔を直視できて、安心するからだよ…」
真人は頭を抱え込む。
直視…?
「男の経験がない琴子には、これ以上言っても仕方ないよ」
「何それ!」
琴がガラステーブルに強く手を付き声を荒げる。
「……」
真人は顔を背けていた。
「心配してるのに、そんな言い方ないじゃない!」
「心配なんかしなくていいよ…」
「だったら、何でここに来たのよ!」
違う…
こんなことが言いたいんじゃない…
「ゴメン…」
真人…
「出かけてくる」
えっ…?
財布と携帯をポケットに突っ込んで、真人は玄関へ向かった。
「真人!?」
バタン…―
無情にも鳴り響くドアの音。
琴の目は見開いたまま。
涙も出ない。
心だけが悲鳴をあげているようだった。
私は…
なんてことをしてしまったの?
真人の携帯へ何度も電話をかける琴。
しかし一方的に切断されてしまっていた。
「真人…」
『…まなと?』
『そう、真人』
『難しいですね』
『そうか?結構読める奴いるぞ。たまに、まこととか言う奴もいるけど』
『私も最初そう思ってました!』

