「彼氏はいるんですよね?」
やっぱ、この先生苦手かも…
「彼氏なんていません!」
琴は田口先生の腕を振り払い、黒板消しで文章を雑に消すと教室を飛び出して行った。
「お先に失礼しまーす」
遠くで琴の声がする。
「廊下は走らなーい!」
更に遠くから教頭の声が聞こえた。
「あらあら」
田口先生は爽やかに微笑むと黒板をキレイに消し始めた。
何で…
何であんなこと書いたんだろう…
家までの道をとぼとぼ歩く琴。
表情は疲れている。
頭の中では無意識に書いたあの文章がグルグルと回っていた。
恐くて聞けない自分が悪いのに、話してくれない真人のせいにしてるの…
「最悪…」
琴は空を見上げた。
低い冬の青空。
薄い雲が静かに流れていく。
そして、やがてちぎれて消えていった。
そんな光景を見ていると、また悲しさが渦巻いた。
「へぇ、あの子がそんなこと?」
「関口先生、何か知ってます?」
琴が常連の保健室にその日居座っていたのは田口先生だった。
「んー、知ってるけど言えないわね」
「何それ。余計気になる〜」
「他人のことだもの。そう簡単には話せないわよ」

