「生徒は気付いてなかったみたいですよ」
「すみません!せっかくキレイにしてたのに!今消しますから」
琴の耳に田口先生の声は届いていなかった。
「消さなくていいです!」
黒板消しを握った琴の腕を強引に掴む田口先生。
「…へ?」
「これ、何なんですか?」
ニヤリとした目付き、小声で尋ねられる琴。
田口先生は明らかに興味津々で楽しそうだった。
「意味深な文章ですね」
琴が黒板に残した言葉。
無意識のうちに書いていた言葉。
揺れるようなスペル…。
Why can't you tell me?
「どうして、私に言えないの…」
田口先生が優しい声で訳す。
どうして…私に…言えないの…
「何かあったんですか?」
「えっ?」
「今もボーっとしてた」
「…私?べっ別に何もないですよ」
顔を覗いてくる田口先生に引きつり笑いをする琴。
「あやしいなぁ〜」
「あやしくないですよ…」
「分かった!彼氏と何かあった?」
「ちちち…違いますよぉ!」
教室の外まで響く琴の声。
「またまた〜。嘘が見え見えですよ」
田口先生は琴の肩に自分の肩をぶつけてくる。
正に二重人格。
AB型のBの血が彼女の中で騒いでいた。

