『ごめんな…』

『…』

『オレが現れなかったら、お前の両親がこんなことにはならなかったのに…』

『…いいんだ』

『…?』

『もともと好きじゃなかったから…』

『そうか…』


















「おかえりなさい」


「…ただいま」

白居家の広いリビングには母がひとり、ソファーに座っていた。
大きな掛け時計の針は10時を指している。

「ご飯、すぐに温めるわね」

母はにこやかに席をたった。

「あっ、いいよ」

キッチンに向かう母を慌てて止める真人。

「真人…」

母は明らかに悲しい顔つきをする。

「心配しないで。晩ご飯は友達と食べてきたんだ」

「そう…」

「ごめんね。せっかく作ってくれたのに」

真人は母の肩に優しく手を置いた。

「いいのよ。ゆっくり休んでちょうだい」

母もまた、真人の頬を優しくなでた。

リビングを後にし、2階への階段を上る真人。
その目の前に人の気配を感じた。

「テスト前なのに余裕だね」

真人が顔を上げると、そこには弟、皆人の姿があった。
冷たい眼差しで真人を見下ろす皆人は腕を組んで階段の壁に寄り掛かっている。