白い吐息


「行ってきます」

ドアの近くから琴が深々と礼をする。

「健闘を祈る!」

関口先生は窓の方を向いたまま琴にピースした。


真人……

琴は走りだした。
生物室を蹴りだして。
ひたすら長い廊下を。
周りは見えなくなっていた。
教頭の言葉も忘れていた。

ただ、
真人の姿を、真人の仕草を、真人の言葉を何度も思い巡らせていた。


「教師…失格だよ…」

保健室を前にして、息絶え絶えの琴が呟いた。
胸に手をあてる。
ドキドキが全身に伝わるのを感じる。
やがて身体を揺らすドキドキは治まった。
もうひとつのドキドキが高鳴る。
その時の琴に気合いのポーズをとる余裕はなかった。

「大丈夫」

そう言って、琴は保健室の扉を開けた。



「あっ…」

校庭の部活動を見ていた真人が、扉の音に反応して振り向いた。

「こっ…こんにちわ」

琴は室内に入り、スグに扉を閉めた。

「…?」

明らかに変な様子の琴を黙って眺める真人。