「例の事件?」
ポツリと呟く琴。
例の事件って、自殺未遂の事?
確かに森下は真人の家の事情には詳しいと言っていた。
でも、秘密って何?
白居くんが、…真人が脅される理由って何?
琴は日誌の文字を見つめて考えた。
しかし答えは勿論出ない。
ため息だけが何度も出ていく。
気にしないって言ったのに、結局気にしてる…
琴はそんな自分が嫌いだった。
まるで大きな心でも持っているかのように真人にひけらかしている自分が。
「嘘つきね…」
ふと校庭を眺める琴。
野球部が走り込みをしている横でサッカー部がボールを磨いていた。
部活…どうしよう…
日誌を閉じ席を離れる琴。
鍵棚から生物室の鍵がなくなっていることに気が付いた。
慌てて職員室を出る琴。
廊下は走らない…と思いながらも駆け足になってしまう。
途中まで来た所で、自分が手ぶらなのを思い出した。
しかし足は止まらなかった。
生物室までの道のりがこんなに長く感じたこともなかった。
琴は夢中だった。
「…ハァ…」
生物室の前に立ち荒い息を整える琴。
胸に手をあて、自分に問い掛ける。

