「英語の先生か、あんたと同じじゃない!」
「はぁ…」
関口先生が煎餅を口から離してニヤっとした。
「あれ?あんた、その先生に憧れて教師になったの?」
琴はゴクンと唾を飲んだ。
「図星かぁ」
「まぁ…」
「その先生、若かったんでしょ?」
こういうことを簡単に聞いてくる関口先生は、まさにおばちゃん先生だった。
「26歳でした…」
「じゃあ、今はいくつ?あんたが高校生ってことは5年位は前よね!」
「今も26歳です…」
琴は淋しそうに呟いて、そしてわざとらしいほどの笑顔で振り向いた。
「えっ…?」
関口先生は持っていた煎餅を床に落とした。
そして、煎餅からそっと視線を上げ、琴の顔を見る。
「私が高校3年のとき、事故で死んじゃったんです」
「そう…」
「明るくて、世話好きで、いつも笑顔で、クラスの女子からスゴく人気があったんですよ」
「……そう…だったの」
淡々と笑顔で語る琴に申し訳なさそうに関口先生はうつむいた。
「嫌だ。先生暗くなんないで下さいよ」
琴はまたベッドに戻り、先生の肩を叩いた。
「ごめんなさいね。何も知らずに余計なこと聞いて」
「別に気にしてませんよ。昔のことだし」
「嘘つきね…」
関口先生はポケットからハンカチを取出し、琴に渡した。
琴の表情が崩れる。
「何年、養護教諭やってると思ってるの。心の傷だって、ちゃんと見えるのよ」
関口先生は煎餅を拾って遠くのゴミ箱に投げた。
ナイスシュート。
「先生にはかなわないな…」

