っはぁ、はぁ、はぁ……。

 夜の暗闇の中を、彼女は走っている。細い三日月は彼女の視界を照らしてはくれない。ジットリと暑い竹林を抜けて、竹垣の続く大きな平屋の屋敷の前を通り過ぎ、小川に架かる橋を渡り、尚も走り続ける。

 何? 何なの!?

 振り返っても姿は見えず、足音もしない。耳に響くのは、自分の足音と浅い呼吸。
 しかし背後、近くに気配を感じる何か。ソレに捕まってはいけないと、本能が警告している。
 時折、生ぬるい風が、後ろから身体を撫(な)でてゆく。
 息が苦しい。両脚が、心臓が、悲鳴をあげている。

 怖いよ! もう走れない……。誰か助けて……!


 ピ――ピピピピ、ピピピピ……。

 目覚まし時計の音で、目が覚めた。




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