それだけで何故彼女が僕に近付いてきたのか

理由ははっきり分かってるつもりだ。


でも残念ながらそれに答える気も何もない。


僕はこの学校にはある目的で来たのだ。


他の生徒は対象外。


「センセって彼女いるの?」

予想通りの質問。

そう言いながらスーツの袖をぎゅっと掴んで
上目遣いで俺を見る。


僕に近付く度に鼻をくすぐるような甘い香水の匂いに
戸惑ったフリをしながら

「彼女か・・いるよ。来月結婚するんだ」

そう、これでいいんだ。

「うそ・・マジ?」

「うん、マジ。」

「そ、か。そうだよね、センセもてるもんね」

さっきまでの自信はどこへやら。

床に視線を落とすと何を決心したかのように
くるりと反対を向いて行ってしまった。

彼女の背中が完全に見えなくなったことを確認してから、
ドアを開けて部屋に入る。