「そして奴らが逃げた後、美麗はある事に気付いた。響夜の上着を借りていた事に。
今行ったらなら間に合うかもしれない、美麗はマンションを出て響夜を捜し始めた」

「嘘だ、そんな事は」

「見付けた時にはやばい状態だった。辛うじて息をしているので精一杯だった響夜に
美麗はすぐに助けを呼ぶからと響夜を励ました..でも響夜はそれを断った」


「断った...?」

「そんな事をしたら帰る時間が遅くなってしまう、自分は大丈夫、今はこんなだけど、ちゃんと帰れるから心配するなってな」

「...そんな」

「でも美麗は諦めなかった、お兄ちゃんを呼んで来るから絶対に待ってて欲しいと。でも―――」

「嘘だ、コイツは警察に嘘を」

「第一発見者が聞いてたよ、もっとも第一発見者は無銭飲食した事で警察から逃げてたらしいくて、こそっと陰で見ながら最初は出ていこうか渋ったらしいけどな」


嘘だ、嘘だ嘘だ..

響夜がそんな事を言っていたなんて、俺は母さんから何も聞いてない。

そんな大事なこと何一つ...


「何でお前の母さんが嘘をついたのかは分からない、でもこれが真実なんだよ。
全部本当の事なんだよ!!愁夜!!」

「そんなバカな話が」

「まあ大事な息子を亡くしてそう簡単に聞けるような状況でもなかっただろうしな。
でもその美麗という名前だけは覚えていた。はっきりと」


「じゃあこの子は」

「何も悪い事はしてない。いや寧ろ助けようとしたんだ。
小さな体で、小さな頭で必死に考えて考えて...でも結局二人が付いた頃には救急車が来ていてもうどうにも出来なかった。なぁ愁夜、もう止めよう、こんなくだらないこと」