それはそれはもう、その夜は燃え盛る炎が赤々と闇を照らしていたに違いない。

そう思える程、その焼け野原は隈無く黒く染まっていた。

点々と、燃え足りないとでも言うかの様に未だにくすぶっている炎のちらつきが視界のあちこちに群がっている。






そこは、昨日までは生命に溢れていた。
夜が明けた昼間の、強い日光が降り立つ今は、そこには何も無い。


何もかも、無くなったのだ。





自分でも驚く程、胸の奥に潜む心は波一つ立てること無く落ち着いていた。
怖いくらいに、冷め切っていた。




でなければ、この黒い大地に足を踏み入れることなど到底出来なかっただろう。
…人を突き動かすのは、何なのだろう。

ジャリ…と、靴底に感じるのは、炭化した脆い何か。

原型も留めず、跡形も無くなってしまった足元の何かを見下ろして…その場で、静かに膝を突いた。















鼻を突く異臭。

死臭。


命が焦げた臭いとは、何てこんなにも不快で、醜いのだろうか。














………ここは、静かだ。











風一つ無い。

何の風も、吹き渡っていない。















「……ここは…静かだ」












誰かに言う訳でもなく、ポツリと、意味の無い言葉を呟く。













「………ここは、静かだ…ここ、は…」















ああ。

俺は、何をしてきたんだろう。


なんて、憎いんだろう。

憎いんだろう。


憎しみが、こんなにも湧くのだろう。












もう、止めよう。

もう…。











「ここ、は………静か………だ……」




















泣くのは、最後にしよう。