「ライ、裏の木箱の片付けまで終わったら言え。そしたら駄賃握って帰んな」

「はいはい…っと」

言われるがままに店の裏手に周り、直射日光の下で無造作に詰まれたとんでもない量の木箱の塔を眺めて、ライは苦笑いを浮かべた。






国土の半分以上が真っ赤な砂ばかりの、この砂漠の国。
廻る季節は一年を通して常に夏。

年が明けて何ヶ月経ったのか、時の経過がとても分かり辛いのだが。
…とにもかくにもこの夏、ライこと…ライ=ウィーリンは、16の歳を迎えていた。







木箱を抱えて店の内外を往復するライの忙しい動きを、いつの間にやら訪れていた馴染みの旅人が数人揃って眺めていた。

給水として買った水の代金を店主に手渡しながら、旅人の何人かが溜め息混じりに口を開く。

「…そこのせかせか動いている奴は…もしかすると雑用で雇っていると言っていた小僧か?…一握りの駄賃のために、よく働くねぇ…」

「お前、何言ってやがる。首都に行ってみな…出稼ぎに出されているガキなんぞ、腐る程いるぞ。雑用でも何でも、雇われているってだけでも運が良い」

「…たかが雑用といえども……まぁ、一人でこの店を切り盛りするオヤジからすれば、ちょうどいい働きアリなんじゃねぇか?…なぁ、オヤジ」


働くライを感心しながら、或いは嘲笑いながら指差して昼間から安い酒を呷る客達に、店主のオヤジは顔をしかめる。
ボロの地図を目下に広げながら、蓄えた口髭の上から皮膚を掻いた。


「………ライは出稼ぎに来てんじゃねぇよ……あいつは、孤児だ。………そんな事よりお前ら、ただ酒を飲みに来た訳じゃねぇんだろうが…話を始めるぞ」


唸る様な低い声音で話を本題に戻せば、向かい合う旅人らの視線が一斉に手元の地図に注がれた。

「随分とまた汚ねぇ地図だな。染みが地形と一緒に見えて分からん…」

「よく見ろ」

オヤジはそう言って、描かれた地形の朧げな形を指先でなぞって見せた。




黄ばんだ四角い世界の中には、巨大な大陸が三つ。幾つもの視線が見下ろす先に、厳かに描かれていた。