亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

鶴の一声ならぬオルディオの一声で、リディアはようやく完全に攻撃の手を止めた。

一瞬だけちらりとライを睨むと、微かに舌打ちをして黒髪の少女に歩み寄る。


少女は相変わらずぼんやりとしていたが、近寄ってきたリディアの影を被ると同時にゆっくりと彼女を見上げた。
砂埃で薄汚れた無表情が、仕切に瞬きを繰り返しながらリディアを凝視する。


「貴女、大丈夫?……立てる?」

目線の高さにしゃがみ込み、先程とは打って変わった大人しい声をかけた。
だが、対する少女はというと……やはり、何も応えない。
別段、怖がっている様子でもなければ緊張している訳でも無い様だ。
ここまで落ち着いている人間など、今まで見たことが無い。


何と言うか……目の前の少女からは、その漆黒が巣くう瞳と同様、何も感じ取れないのだ。
…何も。まるで、人形の様で…。




(………この子)



この黒髪の少女だけに当初から感じていたある違和感を抱きながらも、リディアはまるで小さな子供でも相手にしているかの様に、よいしょと少女を背負って奥へと向かった。

リディアに連れていかれる間も、ボロ布の隙間から少女の眼差しがライを射抜いていた。

















今夜オルディオの元で行われる集会に参加すべく、白槍と黒槍の二人が揃ってこの隠れ家に降りて来たのは、それから本の数分の後だった。

仲間内では、情報のやりとりは当たり前。
とりあえず報告をと思い、連れて来た少女の事をこの二人に話したのだが……やはりと言うか、半ば覚悟はしていたのだが、思春期の青年をからかうには格好のネタになってしまったらしい。

無口な白槍は顔をしかめるに止まったが………黒槍は、こいつは駄目だった。






「―――で、ついつい手を出した、と」

「全く違います。一言一句全て違います。僕の話に妙な展開を付け加えないで下さい」

黒槍のロキが一々からかってくる根も葉も無い言葉に対し、真顔で全否定するライ。