亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


声を押し殺して地面をのたうち回るライに再度「最低」と一言浴びせると、リディアはさっさと顔を背けて元来た道の奥へと叫んだ。


「オルディオ、ライが…」

「だから違うって!……いえ違います、すみません、でも本当に違うんです!石を投げないで下さい!」

末恐ろしい眼光で睨んでくる彼女は、一体その懐にどれだけの小石を溜め込んでいるのだろうか。
尽きる気配の無い飛来する石の集中砲火に、頭を抱えて痛い痛いと騒ぐライ。


傍から見ればただの虐めにしか見えない。
これがいつまで続くのかと途方に暮れてきたライだったが……奥から漏れ出る光源を背景に、ゆっくりと伸びてきた一つの影が二人の間に差し込んだ。
何者かの実に静かな介入は、石投げを止めないリディアとの優劣のはっきりした攻防戦を不意に終わらせた。



勢いを付けるべく砂利を片手に構えていたリディアだったが、背後に感じるその慣れた人気に、ゆっくりと攻め手を止めて振り返った。
それと同時に、頭を上げたライが悲痛な声をあげる。


「…オ…オルディオ!違いますからね!僕は断じて…」

「ライが女の子拾った、身ぐるみ剥いだ、最低な事した、最悪、変態、人で無し」

「何ですか、そのさも見てきたかの様な言い草!?特にその変態っていうの消して下さい!…ごめんなさいすみません!でも違うんです!痛い痛い!」


即座に再開されたリディアの攻撃に、ライは素早く頭を抱える。
妙に小石が尖っている気がするのは気のせいだと思いたい。



リディアの背後で杖を突いて佇む彼等の老長、オルディオは、無造作に伸ばした長い髭を撫でながら…ポツリと一言、固く閉じられたその口から漏らした。



「―――…嬢さんを洗ってやりぃや」

リディアの石投げに対しては何も意見が無いの!?…という青年の悲痛な叫び声は軽く流され…。

地を小突く杖の先で、オルディオは黒髪の少女を差した。
少女は相変わらず何も語らなければ、動こうともしない。
…ただ、リディアの攻撃に耐えるライの醜態をじっと見詰めているだけだ。