「―――この、変態!」
―――刹那。
隠すつもりなど一切感じられない、怒りを露わにした第三者の怒号が聞こえたかと思うと。
…がら空きだったライの後頭部に、剛球とも言える素早さと力を兼ね備えた小石が、衝突した。
これは隕石ではなかろうか、と思える程の殺傷能力を持つ小さなそれは、本の一瞬だがライの脳裏に綺麗なお花畑をちらつかせた。
わぁ綺麗だな、この世のものとは思えないなぁ…と、実際この世のものではない景色に向かって駆け抜けようとした意識を、二発目に飛んできた小石が引き戻してくれた。
花が!たくさん手が!…と意味不明な危ない言葉を連呼した後、ライはハッと我に返った。
後頭部が陥没した様な気がする頭を摩りながら弾かれた様に起き上がると……焚火の仄明かりを逆光に佇む、恐ろしい形相の少女が一人………ライを見下していた。
…瞬間、生命の危機を察して固まるライに、女の子とは思えないドスのきいた低い声がポツポツと落とされる。
「―――帰りは遅い………連絡も無し………また、動物を拾ってくる…」
…腕を組んだ彼女の手中で擦れ合う小石の音色が、やけに響き渡る。
ジャリ、ジャリ…と、それは不気味な鳴き声を上げていた。
「………あんたの拾い癖、知ってる、分かってる。でも…………………人間、拾ってくるとか……しかも……女の子、とか………………しかも、しかも………身ぐるみ剥いでる、とか……」
「剥いでないですよ!?……いや、リディア……これには訳が…!」
目の前の少女…仲間のリディアの箇条書の様な話し方が、余計に怖い。
普段から刻まれている眉間のしわが、今は一段と深い。
目付きの悪さが際立っている。
怖い!
怖い!!
「あの、お願いですから話を…」
「最低」
―――ドスッ、という物騒な音が一つ。
強烈な膝蹴りを鳩尾に喰らった青年が地面で悶える様を、暗がりの奥から黒髪の少女はやはり、じっと凝視していた。


