盛大に落ちた際に、放り出してしまったのかもしれない。
慌てて周囲を見渡すライだったが、少女のシルエットを真後ろに見付けた直後、その杞憂も一瞬で解消された。
…だが。
「―――………あ…」
安堵の息を吐くのも、束の間だった。
振り返るや否や、ライの思考や動きは再び停止してしまった。
ライの真後ろに、少女はいた。
幸い何処にも怪我は無い様で安心したと言えばそうなのだけれど。
……少女は完全に目を覚まし、上体を起こしてぼんやりと…こちらを凝視していたのだ。
埃塗れで薄汚れた顔は、どんな表情を浮かべているのかは分からないが………あの全てを吸い込む闇色の瞳だけは、この暗がりでもやけに映えていて……じっと、固まっているライを映している。
…正直、この状況をどう打破すべきなのか、分からない。
少女からすれば、ここが何処でライが何者なのか知る筈も無いだろうし、困惑するのが当然だろう。
下手をすれば、パニックに陥るかもしれない。
すぐにでも事情を説明すべきだが、いかんせん………こんな状況を想定していなかったライは、少女にかける言葉が見つからない。
ダラダラと流れていく冷や汗の気持ちの悪さを感じながら、ライはようやく声を絞り出す。
「……あ、の………お、驚かないで…ここは……その…何処なのかは教えられないんだけれど…」
「―――」
「……えっと………そ、そう、荷車の中で君を見付けて……それで…」
「―――」
「見捨てる訳にもいかなかったから………勝手、だけど……あの…僕が君を連れてきたんだ…けど…。…………あ、の…?」
「―――」
あたふたとしながらも意味の無い激しいジェスチャーを加えて説明をするライ。
…だが、当の少女は返事はおろか…応える素振りも見せなければ、瞬きもしない。
まるで人形の様に微動だにしない。
…一向に交えた視線を外そうとしない少女に、ライはさすがに不安になり、怪訝な表情で何気なく手を伸ばした。


