亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~



目を離せなくなる程の何かを持つ少女の瞳は、底無しの闇が宿っていた。
勿論、そこに一切の光は見当たらない。

闇の塊が、そこにはある。渦巻くそれは酷く冷たくて、吸い込まれてしまいそうで、深く、深く…見る者を奈落に誘うかの様で。





―――何だ、これは。







言い知れない奇妙な感覚が、ライを襲う。
悪寒に似た、しかし決して不快なものではない冷たさが背筋を走る。
こめかみを、冷や汗が流れていく。

圧倒的な力を前にしたかの様に、ライは一瞬動けなかった。












……だが、身体はライの意に反して我関せずとばかりに動いた。
………ガクンと、真下へ。


「―――えっ?…うぁっ…!?」







勢いを付けるために一歩前へ踏み出した足は、一瞬の硬直により役割を果たすことなく、そのまま足場の悪い砂の渦にズブリと減り込んだ。

円を描きながら流れていく渦に足を取られ、バランスを崩したライは盛大に倒れ込む。
抱えていた少女を咄嗟に庇って受け身を取ったが、時既に遅し。

…運命共同体となった二人は、そのまま蟻地獄の渦に揃って飲み込まれていった。


毎日の習慣も、最初にリズムが狂えばなし崩しになってしまうもので。
潜り慣れた筈の蟻地獄の中、思い切り砂を食べる羽目になり、重力に従うまま………潜り抜けた先の空間で、ライはベシャリと背中から不時着してしまった。




「………いっ…たいなぁ…。…うぇっ……」

全身砂塗れに加えて口の中は砂利で溢れているし、打ち付けた背中や後頭部が地味に痛い。

…かつて、こんなに酷く散々な降り方をした事があっただろうか。
………いいや、きっと無い。





ぺっぺっ…と口の中の砂を吐き出し、背中を摩りながらライは痛む身体をゆっくりと起こす。
脇に放り出された荷袋から、小さなティーラが這い出て来るのを目にした途端…さっきまで塞がっていた筈の両手が今は自由になっていることに気が付いた。



「………あれ?…あの子…」