ライの背中には、ボロ布に包まれた塊が一つ。
言わずもがな、それは帰路に着くまでに寄り道をしてうっかり拾ってしまった……あの、黒髪の少女だった。
「…はぁ…」
頭を抱えたくなるのも、無理はない。
本の数時間前に思い出すだけでも恥ずかしい…とても衝撃的な出会いから、ライの苦悩は始まったのだから。
ボロ布だけを纏った…単刀直入に言うと全裸の少女は、バリアン国家の奴隷運搬用の荷車に、たった独りだけ閉じ込められていた。
息もしているし、生きているのは確かなのだが…どんなに声をかけても、少々戸惑ったが軽く触れて揺すってみても、少女は目を覚まさなかった。
…見付けてしまったのなら仕方ない。
砂漠のど真ん中で少女一人を放置する訳にもいかず、ライは独りで色々なものと葛藤しながら、この真っ黒な眠り姫をなんとか抱えて運び込んだ。
一応言っておくが…蓑虫の様にしっかりと少女を布で包んだから、彼女の身体は見てない。何も見てない。見ない。
始終、生地から伝わってくる女性独特の柔らかさだとか、香水とは違うよく分からない良い匂いだとか…時折無意識で意識してしまっていた様だが、その都度頬を殴って自分に喝を入れたから、問題無い。
全く問題など無い。
そして、どうにか無事に隠れ家まで帰ることが出来た訳だが……本当の試練はここからだ。
……自分の帰宅を待っている仲間に、一体どう説明すればいいのか。
「………傍から見たら……犯罪…いや、ただの変質者だ…」
何処の誰なのかも分からない…しかも何も身につけていない少女を、事情はともかく自分はお持ち帰りしてきたのだ。
一見…完全に、誘拐犯か何かではないか。変態じゃないか。
「………違う…違うから」
とりあえず正直にこれまであった事を説明して…そして改めてこの少女を見せればいい。
…そうだ、まずはそうしよう。まずは話を聞いてもらえば…。


